● えろじた  ●

「あつっ」
出来立てのコーンスープをすすったルフィは、思わず顔をしかめる。舌の感覚がひりひりとした痛みに冒され、どうやら火傷してしまったようだ。
「幼児か」
涙目になりながらだらしなく舌を垂らすルフィを横目で見ながら、ゾロは平気な顔でそれに口をつける。熱々のコーンスープの刺激と旨味を感じながら、呟く。
「悪くねェな」
「あーっ!!おめェなんれ飲めんらよ!!」
 呂律が回らず、ココロさんのような喋り方のルフィが叫んだ。
「修行が足りねェんだよ」
 適当なのか真剣なのか分かりかねる返事をしながら、ゾロは一気にスープを飲み干した。よく喉が焼けないものだ、とルフィは思う。
「しゅりょうしてどうにからるのかな……」
 一体ゾロはどんな二年間を過ごしていたのか、そんなことを考えながらルフィはスープに息を吹きかけた。
ようやくスープがルフィにとって飲みやすい温度になる頃、既にゾロは晩酌を始めていた。しかも熱燗である。
「熱い物は熱いうちがウメェんだ」
 言いながら掲げるとっくりからは、白い湯気がもうもうとのぼっている。
「おっさんみたいなこと言いやがって!」
ご機嫌斜めのルフィは、そう言ってぬるいスープを一気に飲み干した。
「でも、事実だろ?」
そう返してゾロは、熱々の盃を美味そうに飲む。確かに中途半端な温度のコーンスープはいまいちだったので、ルフィは言い返せなかった。
「海賊王になる男は猫舌か、ガキっぽいな」
くっくっ、とからかうようにゾロが笑う。
「―〜っ!!」
美味い物を味わえない悔しさやら、からかわれた腹立ちやらでルフィは顔を赤くする。そうしてこう憤った。
「っ!! もう!エロ舌のくせに!!」
「……は?」
エロ舌。新手の罵り方に、ゾロはきょとんとする。
「……それは何だ」
「猫舌じゃない奴のことだ!悔しいから恥ずかしい名前にしてやったぞ!!」
 ざまあみろ!と威張るルフィに、「やっぱりガキじゃねェか」とゾロは呆れる。
「ばーか! えっちな舌持ちやがって!」
「エロ舌、なァ」
 そう小さく呟くと、ゾロは少し首を傾げて、何か考え込む。
「…………」
――今まで自分の舌について考えてみたことはなかった。しかし、思い返せえばいつもプレイでこの舌を振るっている。時には舌先を使って舐めただけでルフィを満足させたこともある(舐めた部位については触れないでおく)。…ということは、「エロ舌」というのはあながち間違いではない気がする。
 おもむろに立ち上がり、ゾロはルフィへゆっくりと歩み寄る。
「ん? ……どうした」
「……じゃあ確かめてみるか」
 獲物を見つけた時の野獣のように笑うと、ゾロはバンダナを頭に巻いた。
――本気、だ。
「…え? …なにを?」
 身の危険を感じ取ったルフィは、2、3歩後ずさりした。…が、狭い展望台に逃げ場なんてない訳で。
「今日のは、お前から誘ったんだよな」
「いやいやいや! エロ舌ってそういう意味じゃ…!! ああああああ!!」
 


 その後、ゾロはめでたく「エロ舌」以上の「ドエロ舌」認定を受けたそうだ。ちなみに猫舌のルフィには「ドエロ舌」は火傷しそうなほど熱かったとか。
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