Scarlet Scared

タバコに手を付けたら、チョッパーに「病み上がりだから」と注意された。病み上がりだからこそ吸いたいんだ、と反論する間もなく、没収されてしまった。
「……」
 気絶するに至った経緯を、サンジには思い出せない。考えようとするも、妄想で出血することを危惧したルフィとウソップに全力で止められた。
 ベッドに横たわるサンジの視界には、うつ伏せでのしかかるルフィの赤い色ばかりが目についた。
「……重い」
「だろうなァ」
 サンジがそう訴えても、ルフィにあっさり返される。どころか足をバタつかせて、サンジが苦しむのを楽しそうにしている。無理矢理引き剥がそうとしたが、点滴が取れてしまいかけたのでやめた。
「いやー、ホントにあいつらいいやつだったなー」
 あいつら、というのは例のオカマの双子のこと。
「……その話はもういいだろ」
 自分の中に彼(彼女?)らの血が流れてる…などと、これ以上意識したら鳥肌を立てすぎて死んでしまいそうだった。サンジはぶんぶん頭を振り、別の事を考えるように努めた。
「おれは心配だったんだぞー……」
 ルフィから、何度聞いたか分からない言葉を受ける。
「心配は分かったからどけてくれ」
 サンジもまた、何度言ったか分からない台詞を呟く。
アバラを折ったことも、腓骨にヒビが入ったこともある。命に関わるようなケガだって何度もしてきた。それなのにこれ程までに心配されるとは、一体自分はどれだけの量の出血をしたのだろう。
「……ルフィ?」
 ぴたりと、ルフィが足を止めた。かすかな寝息が聞こえてきたので、どうやら眠ってしまったようだ。今がチャンスだ、ウソップを呼んで連れて行って貰おう。
 そう思いつき、サンジは少し体を起こす。そしてまさに声を出そうとした時、ルフィの消えてしまいそうな位小さな声が聞こえた。
「こわかったん……だから……。サンジのあほ……」
 やっぱり、このままでいさせることにする。どうせしばらくすれば「魚人島を冒険だ!」とはしゃぐのだろうから。
「悪かったって……」
 と、狸寝入りの頭を優しく頭を撫でてやれば、ルフィは分かりやすく耳を赤くした。



 ああ、成程。すとんと腑に落ちた気分だ。
 新しいのを吸おうと箱を開ければ、一本も残っていなかった。「吸いすぎだ」などと指摘されて気が付く。
「こりゃ心配にもなるな……」
 手持無沙汰でライターの火を意味もなくちゃかちゃして、サンジは肩を竦める。
 爆弾を食らおうと、腹に穴をあけられようと、どんなケガをしようと「肉を食えば治る」と言っていて、実際その通りだったのに。それなのにこんなに気をもむ理由が理解できた。
 赤色というのは実に不安を駆り立てる。
 ルフィが目を覚ますまで、ずっと自分は気が気でないのだろう。サンジはそんなことをぼんやり考えながら、「F型」と書かれた点滴バッグを睨んでいた。
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