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 ヒジリーランドをマスターイヤミの魔の手から守るため、日々怪人たちとの壮絶な戦いを繰り広げる正義のニート、魔法少女おそ松ちゃんとは俺のこと。
 いや、まあ、そりゃ本音を言えば正義のために戦うなんてそんな面倒なことをせずにひたすら遊んで暮らしたいし、ヒジリーランドが滅ぼうが妖精が死に絶えようがどうでもいいんだけれど、ヒジリーランドは人間世界のお金を司る場所。もしヒジリーランドがマスターイヤミの手に落ちると人間世界の流通経済が混乱するとかなんとかで、結果としては俺らがのんべんだらりとニートを続けることが不可能になり、最低賃金スレスレのブラック企業で馬車馬のように働かされることになるというのだ。大不況の世界で汗水を流して働くよりは、魔法少女稼業で経済破綻を防ぐほうがまだマシだ。そういう訳で、プロニートの俺たちはしぶしぶヒジリーランドの妖精、ショーノスケと誓約を結んだ訳だ。
 
 今日も今日とて俺はヒジリーランドに赴き、怪物たちに大槌――お金のパワーで膨らませた、がまぐち型のハンマー ――をふるう。ちょうど特撮番組に出てくる、ヒト型のザコ戦闘員ばかりなので、無心に槌を振り回していれば、一騎当千とばかりにばったばったと敵は赤い魂となり浄化されていった。
 本当は俺の他にも魔法少女は五人――類いまれな新品力を持った俺の弟たち――存在するのだが、今ここに駆け付けた魔法少女は俺ひとり。妖精のショーノスケから救護要請(妖精だけに)があったというのに、他の松たちはそれぞれ各々の用事があると見えて、魔法少女の仕事をすっぽかしているらしい。俺だって本当はあと二時間は寝ていたかったところを、ショーノスケに叩き起こされて無理矢理連れて来られたのだ。ニートに八時起きは辛い!
 ヒジリーランドに平和が戻ったあかつきには、俺の報酬だけ他の連中より多くしてもらおう、そんなことを考えながらエモノをぶん回していれば、残る敵はあと一体。お金のパワーを最大限まで込めた鈍器を見てはおろおろと右往左往しているあたりがいかにもザコらしい。俺が渾身の一撃を叩き付ければ、哀れザコ戦闘員はあっさり赤い魂へと浄化された。

 さあ、今日の仕事もこれでおしまい。帰って二度寝をしよう。
 武器をしまい、人間世界へと繋がる空間のひずみへ向かって歩き出す。

「……ッ!?」
 次の瞬間、左肩に激痛が走り、俺は前のめりに倒れた。
 背後から、突然何か鋭いものに肩を突かれたらしい。不覚。俺は小さく舌打ちをして、体を起こす。
 振り向けば、イカやタコのような形をした触手が、地面からうねうねと這い出ていた。胴体はイソギンチャクに似ていた。マスターイヤミの手下はたいていヒトの形をしているけれど、こいつは新しい生物兵器か何かだろうか。
 貫かれた左肩からはどくどくと血が溢れ出る。これが生身の体だったら、激痛で立ち上がることすらままならなかっただろう。俺はごくりと息を呑んだ。
 俺は治癒魔法を使えないから、ここは短期決着に限る。もう一度、魔法の大槌を召喚して、はじめから最大火力を出力する。
「うらあああああッ!」
 大きく振りかぶって、触手の根元を狙い殴り掛かる――が、しかし、無数の触手が槌の柄に絡みつき、攻撃が食い止められてしまった。物理攻撃、かつ、打撃攻撃主体の俺の戦闘スタイルじゃ、あまりに分が悪い。どうにかまとわりつく触手を引き剥がそうとするが、がっちりと絡みついた触手はほどけそうにない。腕に力を込めるせいで、肩からはよりいっそう多くの血が流れ出す。
 ――ここはいったん、逃げるしかない。
 このままやりあっていても、この怪物を俺ひとりの力で倒すことは難しそうだ。しかし兄弟、もとい魔法少女が六人揃えば、まあ、なんとかなるだろう。俺は魔法の槌から手を離すと、触手へ背を向け、人間世界とヒジリーランドを結ぶ空間のひずみへ向かって駆け出す。敵を野放しにすることにはやや抵抗があるが、よもや味方を呼んでくるまでの十分や二十分のうちにヒジリーランドが壊滅することもあるまい。
「……あッ!?」
 しかし俺の体は再び地面へと叩きつけられる。今度は脇腹を貫かれてしまった。急所こそは免れたが、それでも体へのダメージは決して小さくはない。俺は脇腹を押さえながら、ワープホールへと手を伸ばす。指先さえ触れれば、人間世界へと戻れる。弟たちさえ呼べば、俺の勝ち。
 だけど、あと1mmで人差し指がワープホールに触れるというところで、俺の体は後退する。足元に目を向ければ、俺の右脚に触手のとぐろが巻いていた。
「うッあああああああああ!!?」
 やがて、夥しい数の触手が、俺に襲い掛かる。

「……はッ……! ぐ、うッ……!」
 太く、グロテスクな触手が、俺の首を絞め上げる。幾多の蠢く触手で四肢を堅く拘束され、逃れることは叶わない。
「あ、う……。は、うぅ……」
 みし、みし、と、絞められた箇所が不気味な音を立てる。それでいて、こいつは俺にとどめを刺そうとはしない。俺が意識を手放しそうになるたびに、触手は絞める力を弱め、鞭のようにしなる触手で俺を叩き起こす。そうして再びぎりぎりと首を絞め上げる。
肩や脇腹の傷も、触手の分泌する粘液で止血されていた。しかし傷そのものが治癒した訳ではない。触手は時々わざと傷口を撫でまわしては、俺が叫び、もがき苦しむ様を観察しているようだ。この化け物は、俺を生かさず殺さずいたぶるのを楽しんでいるのだ。
 こんな悪趣味な奴、弟たちさえいれば簡単に倒せるのに。俺はぎりっと奥歯を噛む。
「ぐあッ……!?」
 その態度が気に入らなかったらしく、触手はさらに強く俺を締め上げた。
「は……か、ひゅッ……あ……」
 息ができず、頭ががんがんと痛む。目の前が暗くなってくる。すると触手はまた力を緩めて、代わりに俺の背中へ重い一撃を喰らわせる。
「うあッ……!」
 そうして俺の意識が戻れば、何度でも首を絞め上げる。この一連の流れが繰り返された回数は十まで数えてやめた。いっそ一思いに殺してほしいと乞いたくなるほど、苛烈な拷問だった。

 しかし、それから複数回繰り返されたところで、ふいに首に絡まる触手がほどかれた。
「はあ、はあ……。げほッ……。は、……。……?」
 解放された安堵よりも、次に何をされるのかという不安の方が大きい。俺はぜえぜえと息を整えながら、ばくばくと心臓の鼓動がうるさく高鳴るのを覚える。
「ごほ、げ、ほッ……。……ひッ!?」
 息が止まった。咳き込む俺の鼻先には、新たな触手が突き付けられていた。それは先端が大きく、くびれがあって、血管がびきびきと浮き出ている――人間の男性器のような形をしていた。
「うわッ……!?」
 触手はぶるりと震えると、先端から白く粘つく、半固形の液体を吐き出した。
 さあ、と全身の血の気が引く。髪の毛から、顔全体、胸元にかけてまで、べとべとする粘液がまとわりつく。人間が一度に出す精液とは、量も濃度も段違いだった。独特の悪臭が鼻をつき、俺は吐き気を催した。
 ところへ、腋の下のあたりへ、二本の触手が伸びてくる。先端は歯ブラシのブラシを生き物にしたような形で、おぞましく蠢いていた。そいつらが俺の胸へとまとわりついて、コスチュームの上から乳首をつまみ上げた。
「……あッ!? なッ……き、気持ち悪ぃッ……!?」
 ねちゃねちゃという粘着質な音を立てて、魔法少女コスチュームを汚していく。先ほど噴きかけられた白濁の粘液と混ざり、服越しにいじられているとはいえ、その不快感は堪え難いものだった。ぐちぐち、ねちねち、と、嫌らしい水音を立てて、乳首がつまみ上げられ、捻られる。触手の分泌する粘液のにおいに中てられて、くらくらとめまいがしてくる。体はとっくに脱力しきっていて、指一本動かすことすらできない。
「は……。あ、ぁ……。もう、や、め……ッ!」
 胸の突起に絡まり蠢く触手が気持ち悪くてたまらない。戦意も闘争心もすっかり蝕まれ、ただこの責めから解放されることを願うばかりだった。

「…………え?」
 ふいに、ぬるりとした感触が、俺の股を襲った。ばかでかい両生類の舌にでも舐めとられたかのような、グロテスクな感触。
 下半身に目を向ければ、俺の両脚に絡みつく触手の他に、今度は悪趣味極まりないショッキングピンクで、やはり男性器の形を模した触手が、俺の恥部をパンツ越しに撫でつけていた。
 ぞわぞわという悪寒が全身を駆け巡る。今までぼんやりとしていた思考が急に明瞭さを取り戻す。
 俺達はマスターイヤミやその手下と戦う際に、魔法少女へと変身する。魔法少女とはすなわち少女で、かつ、処女である。
つまり俺たちは変身すると――類いまれな新品力を魔力の源とするために――男性の象徴を失い、そこに女性の象徴を宿す。今、俺の体には、新品の女性器がついている。

――犯される! 
「ち、くしょうッ! ……ッや、めろッ! やだッ!!」
 俺は四肢に絡まる触手を振りほどこうと体に力を込めるが、全身が鉛のように重く苦しく、抵抗らしい抵抗は声を張り上げることしか叶わない。
「うわッ!? あぁ……ッ!!」
 乳首を弄んでいた触手は、いよいよコスチュームの下にまで潜り込み、地肌を撫でまわす。
「や、だッ……! 離れろッ……! そんな、とこ、触んなッ……! はッ……!」
 気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
 まるで軟体動物が素肌を這っているみたいだ。込み上げる吐き気がよりいっそう強くなる。
「え……? う、そ……ッ!? や、やめ、ろ……ッ!」
 下半身にまとわりついていた方の触手が、パンツの隙間に体を滑り込ませる。
「やだ! やだ、やだやだ! それ、だけは……ッ! ねぇ、ホントに、やめ……ッ」
 べとつく粘液をまき散らし、俺の女性器――俺自身だって見たことがないし、まして触ったことなんてないのに――に触れる。途端、俺の体は反射的に、弓なりに跳ねる。その形をなぞるように、すじに沿ってぬめぬめとしたものが蠢く。そのたびに俺の体はびくん、びくん、と痙攣する。
 やがて、触手の先端は、俺の割れ目に宛がわれた。
 恐怖のせいで少しだって濡れていなかったのに、触手の分泌する粘液のせいで、そこはねとねとになっていた。
 俺は処女を奪われるのか。こんな化け物に、こんなところで。俺は、男なのに。女の子じゃないのに。
 ぐぐ、と、触手の先端がねじ込まれる。もう、駄目だ。こんな奴に泣かされたくないのに、涙が溢れて止まらなかった。
「いッ!? あああああああ!!?」
 めりめりと音を立てて、太く、うねる触手がぶち込まれた。粘液のぬめりで滑るはずなのに、その常軌を逸した大きさに、俺の股は裂けて血が流れ出した。痛くて、苦しくてたまらない。
「痛、いッ! 痛い、からッ……! ねえッ!? お願い、抜いて……ッ!?」
 矜持だとか、虚勢だとか、そんなものを抱える余裕は消え失せていた。俺はぼろぼろとみっともなく涙を流し、ただただ「抜いて」「助けて」と惨めに声を上げ続けた。太腿を、真っ赤な血がひとすじ、伝っていくのが見えた。
「もうやめてよぉッ!? いた、いッ……! 死んじゃう、から……! だ、誰かッ! 助けてよ、ねぇッ……!」
 触手は容赦なく俺の体をえぐり続ける。どす、どす、と、重低音があたり一帯に響く。腹を突き破るほどの勢いだった。強烈な異物感と激痛が、俺の意識を支配する。
「う……、お、え……ッ」
 堪えきれなくなって、俺は胃の中のものを吐き出した。一度だけではなく、何度も何度も繰り返しえづいた。胃液で喉が焼けるようだった。
「う……ぇ……。ぐ、う……。げほッ……、か、は……ッ」
 消化途中のものをすべて戻してしまって、もう緑色の胃液しか喉の奥から出てこなかった。それでも吐き気は止まらなかめちゃくちゃに、ぐちゃぐちゃに掻き回す。
「やだ……。もう、や、だ……。う、えぇ……。……か、ら、まつ……ちょろ、まつ……いちま、つ……じゅう、し、まつ……とど、まつ……。だれ、か……たす、けて……」

 やがて、触手は大きく震えて、俺の胎内に汚液を吐き出した。おれは高圧洗浄のような勢いで、俺の胎はたちまち妊娠したみたいに膨らんだ。火傷しそうなほど熱かったのに、俺は悪寒が止まらなかった。
 触手が引き抜かれると、俺の股からはびちゃびちゃと白濁液が漏れだした。胎の中で、蠢く何かの気配を感じながら、俺は意識を失った。
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