クソ政権にピリオドを

 いや〜、王子様って身分はいいものだよぉ〜。俺、実はマツノ王国の第一王子なんだけどさ、王子の暮らしってすっげーラクだもん!
 ああ、うん。そうそう。王子って言ってもね、この国では第一王子から第六王子までがいて、しかも全員同い年で同じ顔なんだけど。つまり男の六つ子が生まれたって訳ね。
身の回りのことは召使いに任せておけばいいし、王様としての挨拶やら饗応やらの面倒くさいオシゴトは俺の父さん、つまり現王様が全部やってくれるからね。俺たち王子は働かずして食っちゃ寝ライフを満喫してるんだ。うらやましいだろぉ〜!
そりゃ、確かに勉強とか習い事とか、つまんないこともやらされるけど、それを差し引いても毎日美味いもの食えてあったかい布団で眠れるってサイコーっしょ。酒も倉庫からパクってくれば飲み放題だしね。俺、シャンパン好きなんだよ〜。

でもさ、最近悩み事があって。ねえ、ちょっと聞いてくれない?
父さんが老後はゆったり暮らしたいとかなんとかいう理由で、生きてるうちに王位を譲り渡すとか言い出したんだよ。つまり、王様っていう荷厄介な役職を息子に押し付けようっていうんだね。迷惑!
で、六人いるうちの誰が王位を継ぐかって話になって、王族の満場一致で第一王子のこの俺が王位継承者に決まっちゃったんだよ〜! あり得ねぇ〜!
しかもその理由がヒドいのなんの。「だっておそ松兄さんは長男でしょ?」って。バッカじゃねーの!? 俺たち六つ子だから! 長男とかそういうの、ナイから!!
でも、いくら俺が嫌だ嫌だって言っても、もう決まったことだから仕方ないの。だから俺は渋々次の王になることを飲み込んだんだけどさぁ……。
そうと決まると、今までゆるゆる暮らしてた俺の王子様ライフが、王としての振る舞いやら隣国の国勢やらの勉強でどんどん圧迫されてきちゃったの。もうやってらんねー!
弟たちは相変わらずのびのびと美術品集めに耽ったり、かわいい踊り子を追っかけたり、ねこを囲ったり、川を泳いだり、女の子をはべらせたり、王子様ライフを満喫してるんだからさぁ……。あー、もうムカつく! お前ら、俺が王様になって実権を握ったら覚えてろよ!

 ……で、王子様の俺が、どうしてこんな城下町にいるかって? そりゃ、勉強勉強の毎日に嫌気がさしてお忍びで遊びに来たに決まってんじゃん!
 金も持たずに勢いで城を飛び出したからさぁ〜、歩き疲れて腹は減るわ喉は乾くわで、もうどうしよう〜って困ってたところで、お兄さんたちが助けてくれたんだよねぇ〜。いやー、こんなに優しい人たちが自分の国にいるなんて、余は嬉しいぞよ〜。うむうむ。
 そういえば、俺の弟の口うるさいヤツが、「最近はおそ松兄さん政権に反対の奴らの動向がキナ臭いから、不用意に出歩くな」なんて言ってたけど、そんなの俺、気にしな〜い! だって俺、ナチュ盛り愛されモテ王子様だもん! ビッグでカリスマでレジェンドだもん! 恨みを買うようなことした覚えはないんだよね。
 え、反乱分子の奴らは、俺がギャンブル狂いなのが気に食わないようだって? え〜、仕方ないじゃん。サイコロ遊びもトランプも、楽しいんだもん。あ、俺が王様になったら闘技場でも作っちゃおうかな〜。
 俺が女遊びに耽ってるって噂もある? ええ〜、勘弁してよぉ〜。だって俺、まだ童貞だよぉ〜? 嫁探しに困ってるくらいなんだってば! そうだ、王様になったら国中のおっぱいが大きくてかわいい女の子を集めて召使いにしようかな〜。なんちゃって。
 それにしてもお兄さんたち、その、反乱分子って奴らに詳しいんだねぇ。まさか、実はお兄さんたちがそいつらだったりするの〜?
 ……え、「いかにも」、って。あ、あははは。やだなぁ〜、そんな冗談言っちゃって。
 そ、そんな、「俺たちはおそ松政権へのレジスタンスだ」なんて、コワい顔しないでよぉ〜。せっかくの男前が台無しだよぉ〜? は、ははは。

 ……っ。お、俺、もう帰るね! ご飯とか酒とか、おごってくれてありがとう!……あ、あの。もし代金が欲しいなら、俺の召使いにでも申請しておけば大丈夫、だと、思うよ。じゃあ、俺はこれで!
 ……。……う、わ……?ちょっと、飲みすぎちゃったのかな……。おかしいな、俺、酒は強い方なのに……。
……は、クスリ……? 体が痺れるクスリを、酒に混ぜておいたって……?
 それ、マジ?
 あのね、酒はそういうことに使うんじゃなくて、飲んで楽しむものだかんね?
 ……「お前の、そういうふざけた態度が気に食わない」? ……「愚かな王子は俺たちの手で断罪してやる」?
え。ええ……。ちょ、待って。は、話し合おうよ! 分かり合えるよ! 痛っ! か、髪ひっぱんないでよ! ねぇ、どこに連れてくの……? 俺、どうなっちゃうのぉ……?







 頭のてっぺんからつま先までが鈍くしびれて、指一本ロクに動かせない。地面に転がされているせいで、尖った石が背中に当たって不快だ。
 先ほどまで居酒屋で俺と話していたリーダー格らしい男が、口の端を吊り上げる。そうして、道に落ちている小石を蹴るように俺の腹に一撃を入れる。まともに受け身を取れるハズもなく、腹のど真ん中に男の堅い靴先がめり込む。
 げほげほと咳き込んでいると、ガタイのいい男に前髪を掴まれ、無理に体を起こされる。そして勢いをつけて、地面に顔面を叩き付けられる。追い打ちをかけるように、誰かが俺の頭を踏みにじった。ぐりぐりと靴を動かすから、俺の顔は泥に汚れていく。腹の痛みも引かないから、ごほごほと咳き込み続けているせいで、息がちゃんと吸えずに苦しい。
 背中にずしりとした重みを感じる。恰幅のいい男が、俺にのしかかっているらしい。頭を掴んで、何度も何度も俺の頭を地面に叩き付ける。どうやら鼻血が流れ出ていたようで、男たちは俺を指さして笑っていた。悪趣味だ、と思う。

男たちが俺の顔を地面に擦り付けるのに飽きると、今度は背丈の高い男がにじり寄ってきて、俺を羽交い絞めにする。
一体次は何をされるのかと思っていると、先ほどのガタイのいい男が前に出てこれ見よがしにポキポキと指を鳴らすものだから、俺はだいたいの想像がついて、歯を食いしばった。
 予想通り、男の拳が俺の腹にめり込む。
 ごりゅ、と嫌な音がした。内臓まで響くほどの衝撃が、俺の腹を貫く。一瞬、意識が遠のく。
 二発目。威力を失うどころかいっそう強く握られた拳が、一発目とちょうど同じ位置に入れられる。耐えきれず、俺は胃の中のものをぶちまけた。「汚ぇ、吐きやがった」なんて、男たちはニヤニヤしている。
 三発目、四発目、と容赦なく拳は振るわれる。体を押さえつけられているから、受けた衝撃を逃がすこともできず、俺はただ痛みとせり上がる嘔吐感に身をよじらせる。殴られるたびに我ながらみっともない叫び声が漏れるけど、正直に言うと声を出すだけでじんじんと腹が痛む。
 殴るのに疲れたのか、男が自分の拳をさする頃には、俺の胃の中はすっかり空っぽになって、緑がかった胃液だけが口の端から滴り落ちた。

 また、地面に体を投げ出される。俺の意識は朦朧としていて、そろそろ終わりにしてくんないかなぁ、このままじゃ俺、死んじゃうよ。ああ、殺す気でやってるのか、なんて、うつらうつらとしていたら、酒瓶で頭を殴られた。瓶の中身の黄色みがかった液体と、破片で傷ついて流れ出した血が、元々白くて、今は泥まみれの俺のシャツを染め上げていく。
 「ほら、お前の大好きな酒だぞ」、そんな、からかうような声が聞こえる。やっぱりお前らはバカだね。酒は人を殴るためのものじゃなくて、飲んで楽しむためのものなんだってば。
 そんな心の声が聞こえたのか、男たちは俺の体を無理やり支えると、口をこじ開けて、酒瓶を咥えさせる。そうして、その安そうな酒のボトルを傾けて、中身を一気に俺の腹へ流し込む。
 さぁ、と、全身の血の気が引く。アルコール度数だけは高い酒だったようで、俺の体はまるで全身が心臓になったかのようにばくばくといい始める。苦しい、なんて言葉じゃ言い表せない。体を支えていた手が離れると、俺はそのまま地面に倒れこんだ。声にならない声をあげて、酸素を求めてのたうち回る。息が。息ができない。
 誰かに腹を踏まれた。さっきまで散々殴られていたダメージと相まって、すぐに胃の中のものを吐いた。胃液と、安酒の混ざった液体がごぽりと溢れ出て、地面を濡らした。
 気持ち悪いのと辛いのと、悔しい気持ちでぐちゃぐちゃになって、涙が溢れて止まらない。ぐわんぐわんと揺れる世界で、男たちの下品な笑い方だけがやけに耳障りだ。一体、俺がお前らに何をした。なんで俺が、どうしてこんな目に合わなきゃいけないの。

 気を失ってしまいたくて、ぎゅっと目を閉じた。
 だけど、首に熱いものが押し付けられて、びくんと体が跳ねた。
 男のひとりが、熱した鉄棒を手にくつくつと笑っていた。
 「やめて」、自分の口から、情けない声が漏れた。「もう、やめて」
 体がしびれて、苦しい。痛い。辛い。熱い。気持ち悪い。怖い。
 だけど、男たちは「王子ともあろう方が命乞いなんて」とおどけて見せては、鉄棒を手の甲や首筋、鎖骨に押し当てる。そのたびに、俺は目を見開いて、びくびくと体を跳ねさせて、みじめな声を上げる。
 腹に押し当てられた時は、これ以上ないほどの悲鳴を上げた。じう、と音を立てて肉が焦げる感触と、これまで蓄積された痛みに、俺はついに血を吐いた。



「……動かなくなっちまったなぁ」「さて、どうする? もう殺すか?」「いや、勿体ない。生かして嬲って苦しめるべきだ」「だけど、こんな貧弱そうな坊ちゃんじゃ、労働力にはならないだろうねぇ」
息も絶え絶えで、ぐったりと動かなくなった俺を見下ろしながら、男たちが何やら相談をしている。
ああ、殺されんのかな、俺。こんなところで。こんな奴らに。最期に、弟たちの顔くらい、見ておきたかったなぁ。
ぼーっと考え事をしていたら、胸倉を掴まれて、上半身だけ起こした体勢にさせられた。このまま剣でも突きつけられて、喉を掻き切られて、それでオシマイ。
そんな想像をしていたのに、覚悟をしていた俺の目の前に突きつけられたのは刃物なんかじゃなかった。
「……ひッ!!?」
思わず、息を飲んだ。
「労働力にならなきゃ、せめて性欲処理くらいには付き合ってくれよ、王子サマ」
生まれて初めて見る、勃起した他人のちんこ。先走りでしとどに濡れたソレを頬に擦り付けられて、俺の口からはくぐもった悲鳴が漏れる。さっきまでの殴る蹴るの暴力と違い、肉体的なダメージはないハズなのに、俺の手にはじっとりと嫌な汗がにじむ。恐怖と嫌悪感はこちらの方がずっと上だった。
別の男が俺の右腕を持ち上げて、腋にちんこを押し付ける。びくり、と俺の体が揺れる。服越しとはいえど、じっとりと湿った感触が気色悪い。
また別の男は、いつの間にか俺のズボンに手をかけていた。
「王子サマのくせに、ブリーフなんて穿いてるんだなぁ」、そう言いながら、俺の尻を撫でた。ぞわ、と、全身の毛が逆立つ。パンツを下げられて、俺の内股にちんこが押し付けられる。太ももに先走りが塗りこめられる気持ち悪さにがたがたと体を震わせていたら、「こっちにも集中してくれよ」と、顎を掴まれて、口の中にちんこを捻じ込まれた。
 気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
 苦いような、しょっぱいような、変な味がする。喉の奥まで太いモノが抜き入れされて、まともに呼吸ができない。熱したゴムのような感触が、喉や顎に触れるのが不快だ。
 そうしているうちに、腋に熱が走って、恐る恐る視線を向けると、ねばねばとした出したての白濁が、俺の服に塗り込められていた。
 間髪も入れずに、左手をごつごつとした掌に掴まれて、血管の浮き出たちんこに添えられる。そうして俺の手でそれをしごくように動かされる。
 誰かが、俺の髪の毛にどろりとした液体を引っ掛けた。ぽたぽたと垂れるそれは、俺の顔を汚していった。
 喉に、手に、腋に、頭に、太ももに、腹に、背中に。ぐちゅぐちゅと嫌らしい音を立てて、擦り付けられたり、押し付けられたり、こすり付けられたりする。
 口の中にねばついた精液を出されて、反射的に吐き出したら、また腹を殴られた。
 俺はみじめったらしい声で、何度も何度も「ごめんなさい」と呟いた。こんな奴らに謝る理由なんてないのに。
 びちゃびちゃと、顔や体に汚らわしい体液がかけられる。気絶しそうになるたびに、腹を踏まれたり、頭を打ち付けられたりして叩き起こされた。
「王子サマ、お前はこれから死ぬまで肉便器になるんだよ」
 がんがんと痛む脳みそに、誰ともつかない男の笑い声だけがこだまするのだった。
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