●● A whole of holiday ●●
「今日のニュースは何だ……?」
寝ぼけなまこをこするルフィが、新聞を捲るナミに問いかけた。
「えーっと。……そうね、海軍の誰がどうしたとか、どこかの海賊がこうしたとか……。アンタ、そんな話聞きたいの?」
「いや、なんとなく聞いてみただけだ」
「そうよね、ルフィだもん」
「……失敬だな、お前」
その後、ルフィは天気予報を聞いた。ナミは「空は快晴、風は軟風」と伝えたハズなのに、ルフィはどうやら聞き間違えたらしい。
「空は快晴、風はラブリー」
ラブリーな風って何よ。そう突っ込もうと思ったが、本人は「そうかー……。言われてみれば、今日の風はラブリーかもなー」と納得しているようなので、ナミは何も言わないことにした。
「おい、野郎共メシだぞーっ!!!」
そんな会話をしていると、サンジがフライパンをお玉でたたき出した。起きるのが遅いクルー(とりわけ、剣士)の為のモーニングコールだ。また、朝ご飯の用意が出来たことを知らせる鐘のようにも使えるのだ。
こうしてまた、サニー号の一日が始まる。
今日の朝食は、サニーサイドアップにカリカリのベーコン、それに人参のグラッセ。シンプルなサラダに、熱々のコンソメスープ。飲み物はお好みで。
サニーサイドアップはクルーの好みに合わせた焼き加減だ。例えばウソップは、黄身が完全に固まるくらいの焼き加減がお気に入りなのだが、
「って、おれの卵がねェ!!!」
ドレッシングを取ろうと目を離したスキに、彼の前にあった皿は忽然と姿を消していた。
慌てて隣のルフィを仰げば、素知らぬ顔で二皿目のベーコンをかじっている真っ最中だった。
「ルフィ、テメェ!!!」
「ごめん……。今日のベーコンが本当に美味かったから……」
「じゃあ本体ごと持っていくことねェだろ!!」
「まあまあ」
悪びれた様子が微塵も見られないルフィにこれ以上何を言っても無駄だと判断したウソップは、今度はサンジにせがむ。
「なあ、頼むよ! もう一皿焼いてくれ!!」
しかしサンジはつれない様子で、
「今日のおやつに使おうと思ってるからなァ……」
と返した。
「おれの朝食はおやつ以下なのか!?」
ウソップは半分涙目になりながら訴える。
「あー…ウソップ。早くサラダだけでも確保した方がいいぞ」
するとサンジは大変苦々しい顔をして、ウソップのランチョンマットを指さした。
「え」
半透明の、少し茶色がかったスープが入っているべき器は、綺麗に中身を失っていた。
「うん! 今日はスープも一段と……うめェ!!」
隣のルフィは満足げな表情。
「お前ェエエエ!!!」
怒りというより、むしろ悲しみや憎しみに近い感情をぶつけるウソップ。
そんな喧騒の中、テーブルに突っ伏す男が一人。
「大丈夫か!? 医者呼ぶか?」
相変わらず自身が医者であることを忘れ気味のチョッパーが、彼を心配する。しかし、彼は緑色の頭を突如あげて、
「……お、朝か……」
と呟き、そしてまたテーブルに突っ伏すのだった。
「……ゾロ、お前……」
しばし呆然とし、それから「何かの病気なんじゃないか」と心配し出すチョッパー。
「本格的に“ダメに効く薬”、調合した方がいいんじゃない?」
ナミが肩を竦めた。
少し離れた席で、ロビンはさっぱりとした味のドレッシングをかけたレタスを口に運び、そうして微笑む。
「ふふ……。賑やかね」
フランキーは大きな手で器用にスプーンを持ちながら、
「いつものことだろ」
と笑い返した。
一足早く食べ終えたブルックは、ティーカップをとん、とテーブルに置き、
「新曲行きます!! “Break the First”!!」
とギターを構えた。
「おー、やれやれ!」
「いいぞー!」
「食器は後でちゃんとシンクに入れとけよー」
「演奏が始まったら、流石にゾロも起きるかな……」
「おれの卵……」
「アンタ、さっきからうじうじうっさいわよ。諦めなさい!」
「Zzz」
二年間離れていても、二年前と何も変わらない光景。毎日が祝日かのように騒がしいクルーを眺めながら、ロビンはコーヒーを啜った。
そういえば、今日のおやつはサカナプリンだと聞いた。どんな味がするのだろうと想像して、ロビンはまた微笑むのだった。