Fly Flyer


ふとサンジが空を見上げると、視界の端に誰かがマストにしがみついているのを捉えた。赤い服を着て、麦わら帽子を首に下げている。すぐにルフィだと分かった。
「あいつ何してんだ?」
 不思議に思い、その行動を観察する。
彼の体からは蒸気が上がっていて、何やら真剣な様子。マストを両手で掴み、体を伸ばし、勢いをつけて宙を舞う。そして、空中で足をバタつかせる。……しかし、やがて重力に負け、ルフィの体は加速度をつけて落ちていく。
「あ」
 ちょうどその下は海だった。
「っあのバカ!!」
 サンジは悪態をつき、空中歩行で落ちるルフィを追う。ぎりぎりの所で水没する前に救出できた。

「助けるこっちの身にもなれよ、全く! 入水自殺でもする気か!?」
 サンジは文句を言い、ルフィの頭をはたく。しかしゴムの頭は叩いたくらいでは動じないらしく、ルフィは実に真面目な顔で言い出す。
「いや、それが違ェんだよ」
「は?」
「空を飛ぼうとしてたんだ!」
 何たわごと言ってるんだ、もし二年前ならサンジはそう返したかもしれない。しかし今の彼は、苦笑しながらも納得する。
「あー、なるほど」
 ルフィはサンジを指さし、
「そうだよ! さっきもお前飛んだもんなァ」
 と羨ましそうにする。そして「どうやって飛ぶんだろうなー」とぶつぶつ呟く。
「なァ、サンジはどうやって飛べるようになったんだ?」
 思い出したくもねェよ、とサンジは頭を抱えて少し悩んでからこう答えた。
「……追い詰められた時、だな」
「……おお」
 よほど厳しい修行だったのだろう、とルフィは思い測る。そしてそれはあながち間違ってはいない。
「そっか……。じゃあ空を飛ぶのってすぐにはできないんだな……」
 ルフィは顔をあげて空を見ながら、溜め息を吐く。
「お前は空を歩けなくても対空技はあるだろ。もともとリーチも長いしな」
 サンジがフォローを入れると、「そういうことじゃねェんだよ!」とルフィが声を荒げる。
「じゃあどういうことだよ」
 サンジが聞くと、間髪入れずに答えた。
「かっこいいじゃん!!」
「うん?」
「かっこいいじゃねェか! 魚人島でサンジが飛んだ時『すげェ!』『かっこいい!』って思ったんだもんよ!!」
 面と向かって「かっこいい」と言われると、少々恥ずかしい。サンジは俯いて赤くなった顔を隠す。
「そ、そうか?」
「そうだ。だからサンジみてェにおれも飛びたいんだよー」
 はァ、とまた溜め息を吐く。
「もうちょっとしたらまた練習始めよう……」
 諦めの悪いルフィはまだやるつもりらしい。サンジは肩を竦めて「今度は船の上でやれよ」とだけ言った。



 のちのゴムゴムのUFOである。
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